2時間目 分散投資と集中投資はどちらが正しいのか
自分のハマっているゲーチキを株式の投資対象として意識した孝史は、翌日、ゲーチキの株式に投資を行うことになりました。ただ、投資金額について明確な先輩のアドバイスをもらっていなかったこともあり、なんと一度に30億円ものゲーチキ株を大量購入してしまいました。なんとこの額は、孝史が自由に投資をして良いと言われている100億円に対して30%とかなり高い割合です。この取引を見た先輩部員は、リスクの高いもの低いものをバランスよく分散するリスク分散投資が投資の基本中の基本だと孝史を罵りました。このシーンの中心にある分散投資と集中投資はどちらが正しいのでしょうか? それとも……。
分散投資は無知?それとも賢明?
分散投資は、リスクヘッジではなく「無知に対するヘッジ」。この過激に聞こえるコメントは、かのウォーレン・バフェットの名言です。
確かにバフェット氏は集中投資の大御所ですから、このコメントにも説得力があります。ただ、バフェット氏以外にも、実は多くの著名な投資家が集中投資で成功を収めていました。
一人目はピーター・リンチです。リンチ氏は1997年から約13年間、マゼラン・ファンドというファンドで運用責任者として指揮をとっていました。彼の功績はたいへん偉大なもので、当初2,000万ドル(約24億円)程度であったファンドを、たった13年間で700倍の140億ドル(1.6兆円)の世界最大規模のファンドに育て上げました。リンチ氏の主な特徴は、外食産業や小売などの身近な企業を投資対象とし、企業価値より割安な時に株式を購入し長期保有するスタンスです。
加えてリンチ氏は、「個人投資家ならば5銘柄程度に投資をすべき」と集中投資を薦めており、「株式市場では、確かな1銘柄はよく分からない10銘柄に優る」と語っています。孝史の投資スタンスと相通じる部分がありますね。
二人目はウイリアム・ギャンです。彼も20世紀前半を代表する投資家で、現在でも世界の投資家から崇拝される伝説のカリスマトレーダーは、このような名言を残しています。
「一時に10のことに集中できる能力を持った人はいない。成功するには少数の銘柄を選び、それに集中することである」。ちなみにギャン氏の残した“価値ある28のルール”は金言とされ現在でもトレーディングの鉄則とされています。
これだけを読むと、あなたは集中投資が投資の鉄則だと思ったかもしれません。でも、一方で「分散投資は投資の鉄則」だと聞いたことがある方が多いかもしれません。
そうです。金融の世界では昔から言い伝えられている「卵は一つのカゴに入れるな」という分散投資を勧める話はあまりにも有名です。これは、手持ちの卵(資産)を 全て1つのカゴに入れてしまっていると、そのカゴを落とした時に全部割れるリスクがあります。つまり、すべての卵を失うリスクを回避する手段として卵を分けよう、つまり分散投資が一番よいという考え方です。
確かに、1社の会社の株だけを保有して、その会社が倒産してしまうと、すべての資産がなくなってしまします。だからこそ、複数の会社の株を保有していれば、そのうちの一社が潰れても
資産が全部なくなることはなく、ダメージも限定的といったことを考えるとすごく説得力が高く、先輩部員の指摘もごもっともといった感じでしょうか。
20世紀の前半に、このような考え方で活躍し大成功を収めた著名な投資家がいます。その名は、ウォール街で最も多くの投資家に影響を与えたと称されるベンジャミン・グレアムです。グレアム氏は、どんな状況においても致命的な失敗を回避し、長期にわたり安定して資産を守る方法を見つけ出しました。それは、現金・債券と株式のバランスを考えながら分散投資してポートフォリオで管理するという戦略です。このグレアムこそが、分散投資の第一人者です。彼がこの方法にたどり着いたのは、人生で何度も経済的破綻を経験し、資産を守る方法を第一だと考えからだと言われています。
このように分散投資が正しいのか、集中投資が正しいのか様々な意見が分かれそうなので、実はこの議論にまつわるもう一つの投資における“暗黙のルール”を紹介したいと思います。それは、「分散は富を守る。集中投資は富を築く」というものです。ここで孝史の話に戻ります。孝史がゲーチキという銘柄を選択したことも素晴らしいのですが、それと同じぐらいに自分の立場を踏まえて正しい投資戦略をとったという点が評価できるのではないでしょうか。孝史の行動は、またしても無意識に投資の鉄則に沿ったものでした。今回、孝史は自分の置かれた立場で、つまり投資部の部員としてミッションである莫大な資産を築くというものに沿った集中投資を選択し、順調な投資部としての活動をスタートしたようです。あなたは資産を守る立場ですか、それとも資産を築く立場ですか?
分散投資と集中投資の是非はその人の立場(Stage)で異なる
資産を築きたい時には、十分な備えと学びをした上で集中投資が向いていることは歴史が証明しています。一方、資産を守る場合、もしくは投資に対する知識が不足している場合は分散投資が適しているとも言えます。自分の立場をしっかりと考えて行動しましょう。