9時間目 買う前から売る時をイメージしろ
孝史は、投資ノートで「株は入り口にあらず出口にあり」という格言を見つけました。先輩である蓮は、この格言の大事さを具体的に説明してくれるのですが、これは投資だけにかかわらず世の中のルールとまで言っています。本当に株式投資には大事な格言なのでしょうか。
株式投資に出口戦略が必要な理由
株は入り口にあらず出口にあり。この言葉が意味するのは株式の出口戦略の重要性です。特に、投資の初心者は購入する際に、銘柄選択やファンド選択に多くの時間を使いますが、購入後はいずれ上がるだろうと安易に放置する傾向にあります。そして、目標の値段も曖昧に設定します。これでは確実に利益を積み上げることはできません。利益を積み上げるには、株式投資をする前には、売却目標価格をきっちりと設定することです。
このように説明していると、あなたは出口戦略の設定などは非常に簡単だと言うかもしれません。しかし、実際は簡単ではありません。相当な経験を積んだ投資家でさえ、投資後に利益が出始めてくると出口戦略を大きく変えることが多く見られます。具体的には、投資をする前は“年率5%で十分”と言っていた人が、投資を開始してたった1ヶ月で10%のパフォーマンスになったときは、ほとんどの投資家は売却をしません。自分の相場観に自信を持ち、先見性に溺れるだけではなく、最後は人間の欲に潰されて戦略もなくだらだらと保有を続けるのです。
このような時に是非忘れないでほしいことがあります。それは、株価が最終的に本源的価値に回帰するという癖を持っているということです。
イングランド銀行を打ち負かせたことで有名なジョージソロスは、この株価の回帰性を強く意識して資産を築き上げてきました。ソロス氏の提示した理論は、一言でいればバブルは必ず終焉を迎えるというもの。
ここから学べることは、短期的に自分の目標を大きく上回るような株価上昇があった場合でも、自分の投資能力が優れていると自惚れるのではなく、あくまで好循環が生じているからだという謙虚な気持ちを持ち、いずれ株価が本来の価値に回帰する前に、きちんと出口戦略を守り利益を確保することの大切さです。
景気の循環では、株価が上がると資産効果で個人の消費が増え、企業業績も改善し、設備投資や支払い給与も増え、さらに個人消費が増え、その結果企業業績がさらに株価を押し上げる「ポジティブフィードバック」が発生し、一度この循環が発生すると正のスパイラルで株価はますます上昇し熱狂的なバブルになります。最終的には、期待で形成された株価が実際の企業の価値との乖離が大きくなりすぎで回帰する(大きく暴落する)というものです。
株価は、期待を織り込みすぎた(もしくは、悲観を織り込みすぎた)価格と、本来の価値を素直に評価した価格の二面性があります。実は、ソロスはこの熱狂を否定していません。この熱狂の波に乗り、きちっと利益を築き上げることを成功の鍵としています。一方、相場がどのような局面であっても、本源的価値を見出して出口戦略を実行し、大きく下落した時に大量に買いに回ることを繰り返してきました。ぜひ、ソロスの投資法から自分の投資ルールを見出してみてはいかがでしょうか。
株は買う時より売り時が大切です。簡単そうに思えますが、人間は欲で目が眩みます。この格言を忘れずに。
株価の熱狂に乗っても構いません。ただし、いずれ株価は本来の価値へ回帰することを常に忘れることなく、出口戦略を実行しましょう。