8時間目 ビギナーズラックに慢心するな
孝史は投資部主将の圭介と雀卓を囲んでいました。その時、圭介からビギナーズラックの話を聞きました。神様は思い切って一歩を踏み出した人にちょっとだけご褒美をくれるそうです。さて、なぜ投資の世界にビギナーズラックが存在するのでしょうか?
ビギナーズラックが多い、に科学的根拠はない
投資の世界では、よくビギナーズラックという言葉を聞きます。投資における勝率は50%です。ですから、初心者の最初の投資は成功するという科学的な根拠は実はありません。しかし、世間ではこのビギナーズラックとういう言葉はかなり広く認知されています。それはなぜでしょうか。その背景は、最初の投資で利益を得た投資家は他人に自慢をする傾向があり、“ビギナーズラックだね”など周りの人に冷やかされながらも周りの人の記憶に定着します。一方最初の投資で損失を出した人は周りに伝えることがあまりないので、その記憶が周りの人に定着する機会が少なく、その結果、最初に投資をすると利益を上げることが多いというビギナーズラックが世の中に存在するような誤解が定着したのではないかと思われます。
ビギナーズラックが厄介な本当の理由
それでもビギナーズラックは存在します。それは、無邪気な気持ちで投資をすると、邪念がなく投資がうまくいくことがあるからです。それはそれで悪いことで全くありません。しかし、ビギナーズラックには弊害があります。それは、最初に成功することで「自信過剰バイアス」という心理状態にいざなわれることです。
この自信過剰バイアスの自信過剰とは、自分はたぶん、なんとなく人より上手くいくとか、自分を自分で平均以上であると思い込んでしまう考え方です。また、バイアスとは、偏った(かたよった)行動や考えを意味しています。つまり、自信過剰バイアスとは、最初の投資に成功してしまうと投資において根拠のない自信過剰な行動をとる傾向が強くなることを意味しています。
最近よく見かける自信過剰バイアスの言動の一例をご案内しましょう。
“リーマンショックは過去の話。今度同じことが起こっても僕なら大丈夫。なぜなら自信があるから!” とか、
“自分は株式投資が上手。多分、大きな損失を抱えることはない。センスあるし先天的な資質を持つ天才的なタイプ” など本人はいたって真面目に言っていますが、はたから見ると少し滑稽に映ることが多いものです。
さて、この自信過剰バイスは行動心理学で実証されたもので、米国の経済学者であるフィッシャー・ブラック氏が1986年に論文の中で提唱した概念です
一番有名でわかりやすい例えは車の運転です。
車の運転は得意ですか?と質問をすると、なんと70%もの人が平均より上手だと答える」そうです。離婚の話もそうです。今や結婚したカップルの3分の1が離婚する時代です。にもかかわらず、多くのカップルは、“私たちだけは離婚をしない”と回答します。極めつけは、焼肉の食べ放題。多くの人は“僕だけは料金以上食べられる!”と考えるそうですが、実際には食べ放題のお店はそのことが原因で潰れることはありません。あなたも心当たりがあるのではないでしょうか。
このように最初の投資で安易に成功することで自信過剰バイスアがかかり、実は長期的に見ると不幸なるケースも見られます。天狗になるばかりか、株式市場では素人でも初心者でも生半可な知識でも大儲けできる
甘い世界だと勘違いしてしまい大きなしっぺ返しを受けます。
実際に、最初はこわごわと少額から投資をスタートしていた人が、ラッキーな利益で自信過剰になり、手をつけてはいけないお金を無防備に投資に回すタイプは要注意です。
実話です。ある初心者投資家であった女性がご主人から一時的に預かった住宅購入の頭金を某大手電機メーカーに投資をしました。その大手家電メーカーは、長年ヒット作から見放されて株価は大きく下落をしていましたが、なんと一番価格が高い時から4分の1以下まで下がっていたのでチャート的にはそろそろ底打ちしそうな感じにも思えたそうです。しかもやっかいなことに、彼女はその3ヶ月前に半年間でメガバンク株が2倍になった強烈な成功体験をしていました。成功体験に浸っていた彼女は、大きなお金(頭金)を預かったことで欲が出て、株価が長年下げている理由を調べることなく、またチャート分析もする訳でもなく直感で投資を行ってしまいました。残念ながら、その後、住宅購入に頭金を使う時には約35%もマイナスになっていました。その結果、ご主人に怒られたばかりではなく、頭金が減ったことで住宅購入を見送る羽目になりました。しかも、最悪なことに後で振り返るとその時は不動産を購入する最高のタイミングでした。彼女の安易な行動は二つのミスを招いてしまいました。
・儲かったイメージを引きずり2匹目のドジョウ
・冷静さを失った自己否定できない人間になる
・間違えた成功パターンが強く脳に記憶されてしまう
ビギナーズラックでこのような感覚になり後々苦しむ人が多くいます。ぜひ、最初の投資で神様からご褒美をもらっても自信過剰にならずに冷静に投資を続けてください。そして、そうなる傾向を熟知することで自分を戒めることができます。
ビギナーズラックはラックではない。アンラッキーの入り口でもある。この事実を知っているだけで、二回目以降の投資のパフォーマンスに雲泥の差が生まれる。